平成19年1月号
御報恩御講拝読御書と御法話

兄弟抄 (御書九八七頁)
建治二年四月 五五歳

兄弟抄 (御書九八七頁)

設とひいかなるわづらはしき事ありとも夢になして、只法華経の事のみさはぐらせ給ふべし

 『兄弟抄』は建治二年(一二七六年)四月、身延から池上兄弟に与えられた御書です。この時、大聖人様は五十五歳でした。当抄の御真蹟は池上本門寺などに伝えられております。
 
 本日拝読の御文は兄弟抄の最後にあたるところで、この文の直前には
「心の師とはなるとも心を師とせざれとは、六波羅蜜経の文なり」
との御文があります。これは、うつろいやすく猫の目のようにくるくる変わる私たち凡夫の心を中心とするのではなく、常に仏様の教えを心の中心することを経文を引いて示されたところです。私たちの信心にあてて拝するならば、煩悩に充ち満ちた我が心を中心とするのではなく、末法の真実の仏様であられる日蓮大聖人様の教えに我が心を合わせてゆくことこそ幸福になるただ一つの道である、ということです。

 その上で、
「設とひいかなるわづらはしき事ありとも夢になして、只法華経の事のみさはぐらせ給ふべし」
を拝しますと、よりいっそう大聖人様のお心に近づくことができるように感じます。

 こゝで大聖人様は、「たとえどのような煩わしいことに直面しても、現世での出来事などは一瞬の夢のようなものであると思いなさい。煩わしいと思われることに心をとられてご信心を忘れてはなりません。大切なことは、御本尊様のことをひたすら思うことです」と教えてくださいます。

 この御文を与えられたときの兄弟の状況を考えてみますと、「煩わしい」こととは、兄宗長にとっては勘当されたことであり、弟宗仲にとっては御本尊様の信仰を退転することを条件に家督の相続を持ちかけられている状況を指しております。当時の勘当といえば、今日の感覚では、死刑を宣告されたに等しい、といわれております。主従や親子の関係は想像を絶するものがありました。そのような倫理観が支配するなかで父親の意に背くのですから、「煩わしい」ことの重さがわかります。アメとむちを用いて兄弟の仲を裂こうとするのですから、まさに第六天の魔王が現れて信心を妨害する姿です。

 このようなときだからこそ大聖人様は仰せになるのです。自分の心を師として物事を決めるのではなく、今こそ御本尊様の御前で唱題をして御本尊様の知恵を持って出処進退を決めてゆきなさい、と。

 「只法華経の事のみさはぐらせさ給へ」との御指南はひたすら御本尊様のことを思いなさい、ということなのです。法華経のことのみと仰せです。申すまでもありませんが法華経とは、法華経の御本尊様のことです。ですから、色々なことが頭をよぎるかもしれない、だがそのことは御本尊様以外のことである、今大切なのは御本尊様のことを思う心なのである、と危機に直面している兄弟に、大確信をもった御指南をされるのです。「さはぐらせさせ」とは思索をする、考えるという意味ですが、ここでの仰せはただ単に考える、という意味ではありません。唱題をして行動を起こせ、という意味です。しかし、御本尊様の前で唱題するだけでは御本尊様のことを思う心は十分ではありません。何故ならば大聖人様は「観念観法」は過去の修行である、と仰せになっておりますように、山林に籠もって思索をめぐらしているだけの修行、つまり思うだけでは末法の修行にはならないからです。ようするに、末法の修行とは折伏が表にある修行ですから、行動がともなわなければなりません。

 この御指南を受けて兄弟を始め女房たちも力を合わせて、父康光に対してより強く折伏をいたしました。その結果、ついに極楽寺良寛の強信者であった康光も日蓮大聖人様の信心をすることができたのです。

 このことは、封建社会において、最も難しい親の折伏を成し遂げ、最高の孝養を尽くしたことになります。四条金吾は主君を折伏して領知を没収されました。また南条時光は熱原法華講衆をかくまったことにより多大な公事を命ぜられて、苦難を経験しております。

 それらを乗り越えて大きな功徳を受けたことも御書の中で明らかです。皆様方の中にも、池上兄弟と同じようにお父さんやお母さんを折伏中の方がいらっしゃいます。最も難しい親の折伏に挑戦するとき、この御文を支えとしてお進みください。池上兄弟のように必ず大きな功徳を受けることが叶います。

 また、兄弟や親戚、あるいは友人知人、会社の同僚や上司を折伏するときにも、あの池上兄弟は当時最も難しいと思われていた父親の折伏にあたって、日蓮大聖人様から頂戴した「設とひいかなるわづらはしき事ありとも夢になして、只法華経の事のみさはぐらせ給ふべし」のご指南を実践してついに折伏を成就することができたのだから、私たちもこの御文を心に入れて実践すれば必ず折伏を成就できる、と確信し進みましょう。

 新しい年に入って二週間が過ぎました。おとそ気分ももう抜けたことと思います。唱題のエンジンを全開にして飛び立とうではありませんか。

 寒さの厳しい季節に向かいますが、風邪など引かぬように留意され御法のためにご精進されますよう御祈念申し上げます。

今月の主な行事
1月 1日 立宗七百五十五年 元旦勤行
1月 7日 広布唱題会
1月13日・ 14日 御報恩御講

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日蓮正宗向陽山佛乗寺